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数値化できない「バリューの深さ」と、どう向き合うか。という話。

雑記✍
最近、エンジニアリングオフィスとして組織の「バリュー(価値観)」をどう浸透させるか、というテーマについて、考えてみました。
チームで挙がった「バリュー浸透には『広さ』と『深さ』がある」という話です。
「広さ」は分かりやすい。ポスターを貼ったり、全社総会でコツコツとつたえることをする、触れる機会を増やす。その先で認知度アンケートをとれば、ある程度は表出し、数値で測れます。
でも、本当に難しいのは「深さ」のほう。
メンバー一人ひとりがバリューを自分事化し、困難な意思決定の基準にし、誰も見ていない時でもそれに従って行動する。そんな状態を指す「深さ」。
これって、どうやって測ればいいんでしょうか?
「深さ」は、平時には見えない
考えていて気づいたのは、「バリューの深さは、仕事が順調な平時には見えない」ということです。
バリュー通りの行動をとることが、短期的な利益や自分の感情と対立しないなら、誰だってそう振る舞えます。
「深さ」が本当の意味で試されるのは、ジレンマの状況下だけです。
自分にはできないかもと思ってしまう時、納期ギリギリで品質を妥協したくなる瞬間、売上のために少し強引な手段を取りたくなる瞬間。そういう強いプレッシャーがかかった時に初めて、その人の、そのチームの「向き合い姿勢、振る舞い」にバリューの深さが表出します。
だから、「バリュー浸透度スコア:3.8点」みたいな平均値で管理しようとしても、あまり意味がないのかもしれないな、と思い至りました。
「記者」になって、N=1を掘り起こす
じゃあどうするか。僕がたどり着いたのは、定量的な計測を諦め、たった一つの象徴的な「N=1のエピソード」を全力で拾いに行くアプローチです。
ただ、待っていてもこうしたエピソードは上がってきません。当事者であるエンジニアにとっては「苦渋の決断」だったり「当たり前のプロ意識」だったりして、わざわざアピールする対象ではないからです。
だからこそ、エンジニアリングオフィスは「警察(監視する人)」ではなく、「新聞記者(良いネタを探して取材する人)」として現場を歩き回る必要がある。具体的には、こんな仕掛けができるはずです。
1. あの人はすごいんだよ!が言いやすい状況をつくる
「自分がやりました」とは言いにくいもの。だから、「あの人のあの判断、バリュー的ですごかったよ」と他薦するハードルを極限まで下げる。称賛のタレコミを集める仕組みです。
2. ポストモーテム(障害対応)を深掘る
障害対応は、まさにジレンマの宝庫です。「再発防止策」だけでなく、「復旧を急ぐプレッシャーの中で、バリューに従ってあえて一度止まる判断をしたこと」のような、隠れたファインプレーをその場から抽出する。
3. マネージャー間の目線合わせ
週次のEM定例などで「今週のN=1」を持ち寄る。それぞれのチームで起きた葛藤と判断をシェアすることで、「うちの組織における『深さ』とはこのレベルの話だよね」という基準(カリブレーション)を作っていく。
「エンジニアリングオフィス」としての意志を示す
測れない「深さ」に向き合うということは、最終的には、僕らが運営する「エンジニアリングオフィス」という機能が、現場に対してどう働きかけるか、取りに行くかという話になります。
深さの観点においては、スコアを見て一喜一憂するのではなく、コンフリクトが起きている現場に介入し、バリューを基準とした対話を促すこと。そして、拾い上げた「苦渋の決断」の物語にスポットライトを当て、組織として全力で肯定すること。
そんな泥臭い営みを組織機能として続ける先にしか、本当の「深さ」は宿らないんじゃないかな。
バリューの深耕とは、奇麗なスローガンを掲げたところで満足せず、現場のジレンマに対して組織としてどう「態度」を示すか、その連続なのだと思います。
そんなことを、ぼんやり考えていました。
