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Willは無意識的に嘘をつくけど、快・不快は嘘をつけないよな、という話。

メリークリスマス🎄
目標設定の季節がやってきました。
そして、今の時期は採用面接の場でもよくこの手の話になります。
「あなたのWill(やりたいこと)は何ですか?」
「3年後、どうなっていたいですか?」
誤解のないように言っておくと、僕は組織における目標設定や、面接でのビジョン共有を否定しているわけではありません。ベクトルを合わせる重要性は理解しているし、今の会社は個人の想いを尊重して丁寧に対話してくれる、とても恵まれた環境だと思っています。
ただ、そうやって真摯に向き合おうとすればするほど、ふと立ち止まってしまう自分がいます。
この正攻法の問いに対して、嘘をつかずに答えるのは、実はすごく難しいことなんじゃないか。
なんていうか、Willって、簡単に捏造できちゃうよな〜💭そんなふうに思うのです。
脳みそは、よそ行きの服を着たがる
「やりたいこと」を問われた瞬間、僕たちは脳みそをフル回転させます。
目標設定シートの前でも、面接官の前でも、無意識のうちに「正解」を探し始めちゃうんですよね。
「今はこの技術がトレンドだから、キャッチアップしたい」
「年齢的にも、そろそろマネジメント視点を持つべきだ」
これ、本当にやりたいことなんでしょうか。
多くの場合、「こうあるべき(Should)」とか「こう見られたい(Vanity)」という不純物が混ざった、よそ行きの言葉です。
その結果、自分自身さえも「これが私の本心だ」と騙してしまう。
で、その立派なWillに従って突き進んだ結果、目標は達成したのに全然幸せじゃなかったり、入社後に「こんなはずじゃなかった」と燃え尽きたりする。
「キャリアの迷子」って、地図を持っていない人じゃなくて、「偽物の地図」を握りしめて走っている人にこそ起きる気がします。
胃袋と心拍数は、もっと正直
そんなことを悶々と考えていて、ふと気づきました。
脳みそは無意識的に嘘をつくけど、日々の「快・不快」という身体反応は絶対に嘘をつきません。
まだ若手だった頃の、昔の職場での記憶を遡ってみても、このセンサーだけは正確でした。
例えば、複雑なスパゲッティコードを解いている時。脳は疲れているはずなのに、時間は一瞬で過ぎている。これは「快」。
逆に、当時参加していた目的の曖昧な定例会議や、誰が読むかわからない形式的なドキュメント作成に追われていた時は、ふっと呼吸が浅くなったり、胃が重くなったりしていました。これは「不快」。
どれだけ面接で「私はPMとしてプロジェクトを回したい(Will)」と立派なことを語っても、実際の調整業務が苦痛で仕方がないなら、その「不快」こそが紛れもない真実なんですよね。
動物としての自分は、とっくに答えを知っている。
脳みそがそれを、もっともらしい理屈で上書きしようとしているだけで。
自身の「快」を組織の、社会の言語に「翻訳」する
とはいえ、組織に所属している以上、目標設定シートは埋めなきゃいけないし、面接では貢献できることを伝えなきゃいけません。
だから僕は、Willから考えるのをやめて、「快」の感覚を組織言語に「翻訳」するというアプローチをとるようにしています。自身の「快」と、組織の期待を接続する作業です。
例えばこんな風に。
- 「複雑な依存関係を整理している時が『快』だな」 →翻訳後:「アーキテクチャ刷新による、開発生産性の向上」
- 「人の相談に乗ったり、チームの揉め事を解きほぐすのが『快』だな」 →翻訳後:「オンボーディングの仕組み化と、メンター制度の運用」
- 「同じ作業を繰り返すのが『不快』で、スクリプトを書くのが『快』だな」 →翻訳後:「QAプロセスの自動化による、リリースサイクルの短縮」
やっていること(快の源泉)は同じでも、アウトプットの定義を組織のメリットに合わせて言語化する。
これなら、自分の動物的な本音と、組織からの期待に矛盾が起きません。嘘をつかずに、堂々とシートを埋めることができます。
面接も、目標設定も、獣道を探す作業
これは採用面接でも同じことだと思います。
「御社でリーダーになりたいです」と捏造したWillを語って内定をもらうより、「私はカオスな状況を整理することに快感を覚えます」と、自分の反応の癖を伝えた方が、結果的にお互いにとって幸せなマッチングになるはずです。
未来の理想像から逆算するんじゃなくて、過去と現在の「快・不快」のログを考古学みたいに掘り返してみる。
そうやって積み上げた事実の延長線上に、「あ、自分はこっちに行きたいんだな」という道がおぼろげに見えてくる。
それは、舗装された綺麗な高速道路ではないかもしれないけれど、歩いていて気持ちのいい獣道なはずです。
決してWillが不要なわけではありません。ただ、順番を変えるだけです。
頭で作った地図を頼りに歩くのではなく、歩いて心地よかった道を地図にする。
結果として生まれるWillは、きっと誰の言葉よりも強く、説得力があるはずだから。
Willは無意識的に嘘をつくが、快・不快は嘘をつかない。
迷ったときは、高尚な理念よりも、自分の胃袋や心拍数を信じてみる。
そんな生存戦略のほうが、案外遠くまで行けるんじゃないか。
そんなことを考えながら、今年も自分の目標設定シートに向き合っているのでした。笑
